【書評】「マルクス・ガブリエル欲望の時代を哲学する」哲学に対する考えが180度変わった1冊

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こんにちは。
毎週全く違ったジャンルの本を読む習慣を定着させるため奮闘しているsasaki(@sasaki_holiday)です。

今回ご紹介する本はNHK出版新書「マルクス・ガブリエル欲望の時代を哲学する」です。

マルクス・ガブリエルとは2009年に若干29歳の若さでボン大学の哲学科教授に就任した世界で注目されている哲学者です。

本書はそんなマルクス・ガブリエルが2018年6月に来日時の滞在記録をまとめたNHK番組「欲望の時代の哲学」を書籍化した1冊です。

私自身、大学時代に哲学の授業を聴いてて心底つまらない学問だなぁと感じていました(笑)

だって、「○○が存在することを証明せよ!!」とか「世の中の概念や通念を言語化せよ!!」とか意味不明じゃん。

それで試験になったら「自分の意識と相対的に。。。」とかそれっぽいこと書いてたらなんか単位貰えちゃうみたいな。

当時は哲学ってホント中身のない学問だなぁとか思っていたわけですよ。

しかし、本書を読んでみて哲学に対するイメージが結構変わりました。

「哲学って勉強し過ぎた人の言葉遊びでしょ??」

本書はこんな風に思っている人にこそぜひ読んでもらいたい1冊です。

東京・大阪・京都を旅したマルクス・ガブリエルが感じたこととは

まず、本書の第1章ではマルクス・ガブリエルが実際に見て感じた日本を語っています。

最初に触れたのは東京の駅。

東京では、いつも、人間がシステムを維持する一端を担っているような印象を受ける。人間のためにある電車システムじゃなくて、電車システムのためにいる人間みたいな感じだ。そんなふうに見ることもできるよ。

※丸山俊一;NHK「欲望の時代の哲学」制作班.マルクス・ガブリエル欲望の時代を哲学する(NHK出版新書)(Kindleの位置No.178-180).株式会社NHK出版.Kindle版.から引用

世界的に見ても時間に対する正確さに優れている日本の電車システム。

そこには知らず知らずのうちにシステムの一部となっている人間がいると。

確かに、「時間を乱す」ことについてはまるで犯罪でも犯したかのように扱われる日本。

マルクス・ガブリエルはその点についてこんな風に述べています。

全員が時間の経済に参加しなければならない。さもなければ、システムが崩壊し、分刻みで生きることはできなくなる。

※丸山俊一;NHK「欲望の時代の哲学」制作班.マルクス・ガブリエル欲望の時代を哲学する(NHK出版新書)(Kindleの位置No.272-273).株式会社NHK出版.Kindle版.から引用

なぜ、時間に厳しい人が多くいる一方で一定数は時間に無関心な人もいる日本で、これほどまでに統制された時間管理が可能なのかって私も疑問でした。

だってそりゃ、国民性として時間に厳格とは言っても当然遅刻する人間もいるし時間とか気にしない人もいるのに。

このように日本を旅しながらあらゆる角度で話が展開されていくのが本書の魅力の一つです。

個人的にビックリしたのが、電車の話題の流れで日本とドイツの改札の違いに触れた点。

日本では当然、切符を改札に通しますよね。

でもドイツではそんな必要はないとのこと。

その理由は「切符は持っているはずだから」

これが先ほどの時間同様に社会が持つ主観・精神の違い。

このような日本とドイツにおける道徳的な部分について以下のように語っています。

つまり、道徳的行為というものは客観的な判断ではなく主観的な判断で有無を言わずに行うべき、しないという選択肢はないという考え方をドイツ人は持っている。それに対して日本人の場合は客観的な面を気にした上で、体面を保つための道徳行為だったりするのかもしれないね。

※丸山俊一;NHK「欲望の時代の哲学」制作班.マルクス・ガブリエル欲望の時代を哲学する(NHK出版新書)(Kindleの位置No.280-282).株式会社NHK出版.Kindle版.から引用

今まで、哲学って小難しいことをより難しく言い換えるだけの学問だと思っていました。

しかし、哲学とは意識や精神を通して実際の社会や人間を再定義して現実と向き合う学問なんだと感じました。

第2次世界大戦以降の哲学史をマルクス・ガブリエルが語る

続く第2章では世界の概念を大きく変えた「第2次世界大戦」からその後現在までの哲学史をマルクス・ガブリエルが語っていきます。

この辺から本格的な哲学って感じに話がシフトしていきます。

第2次世界大戦以降に発生した「実存主義」。

実存主義を本書内では「実存は本質に先立つ」と表現しています。

つまり、そもそも存在には何の意味もなくそこにあるのは存在のみで、その後に意味を与えるというもの。

言い換えると、生まれた人間には何の意味もなく、そのあとに人生の意味を見出すということ。

で、なんでそんな考え方が第2次世界大戦以降に発生したかというと「すべてが破壊されたから」

実存主義が第二次世界大戦の直後に起きたのは偶然ではない。多くの国々の多くの都市のように、すべての意味が破壊されたからだ。すべての意味がなくなると、新たな意味を見つけ出さなければならないのだ。

※丸山俊一;NHK「欲望の時代の哲学」制作班.マルクス・ガブリエル欲望の時代を哲学する(NHK出版新書)(Kindleの位置No.1012-1014).株式会社NHK出版.Kindle版.から引用

すべてが破壊されたことにより意味を失い、そして意味を見つける必要が出てきたから。

このように以降に続いていく「構造主義」「ポスト構造主義」。。。と話は展開されていきます。

この章では戦後の哲学史をマルクス・ガブリエルの視点で切り取ったある種解説のような側面が強いですが、ベースがTV番組であるので分かりやすい。

話がよどみなく流れて行って、全く哲学に対する知識がない私でもスゥーっと頭に入ってきます。

そして、哲学とは社会と映し出す鏡のようなものであり時代の流れや社会の情勢がそのまま哲学に現れていることがよくわかる内容となっています。

多分、こういう話をしっかり聞いていれば大学時代の哲学の授業も楽しめたのかもなぁと感じました(笑)

哲学者 マルクス・ガブリエル×科学者 石黒浩

そして第3章では哲学者である「マルクス・ガブリエル」と日本のロボット科学の最先端をいく科学者「石黒浩」の対談が収録されています。

話は石黒浩の専門とするロボットと人間の違いや技術を得た人間が進むべき道などについてそれぞれの立場で率直な意見がやり取りされます。

また、日本独特の論理感を言語や文化の側面からそれぞれの見解を述べていたりと見どころ満載です。

個人的には、理論に対する日本人とドイツ人のアプローチの違いが興味深かったです。

というのも、ドイツ人は歴史的な背景などから「構造的な思想」を共有しているため、常に理論が構築されていてそれを共有するのも容易。

対して、日本はある種の無秩序ともいえる独特のイメージを共有しているため変化に強いという。

哲学が人間の考え方や共通意識などを通じて科学に影響するという部分はある意味ビックリしました。

だって、私の中では哲学という完全な文系的学問にと科学という理系学問が相互に影響を及ぼしているなんて全く考えていませんでしたから。

また他にも「人間」の定義についてマルクス・ガブリエルと石黒浩の意見が真っ向から逆の考えだったシーンもお互いへのリスペクトと非常に論理的かつユーモラスな会話は非常に読んでいて飽きませんでした。

「マルクス・ガブリエル欲望の時代を哲学する」を読んだ感想

というわけで今回は、新実在論を提唱する新進気鋭の哲学者「マルクス・ガブリエル」の来日時滞在記録をまとめた1冊「マルクス・ガブリエル欲望の時代を哲学する」を読んでみました。

実際に哲学とは全くの無縁であった私が読んでもとても楽しめる1冊で、これから哲学というものに触れる方のキッカケとしてはとても素晴らしい1冊だと思います。

時代が大きく変わっていく中で哲学も変化して、その時代を反映した思想や概念が社会を飲み込み、その中で人間が必死に生きる意味を見出すことは必然なのかと感じる1冊でした。

これまで、私は哲学というものにある種の懐疑心がありました。

というのも、哲学とは言ってしまえば「後付け」に過ぎず、社会や歴史の大きな流れを言語化しただけの学問だと思っていました。

ところが本書を読んでみて、哲学とは思考や意識、精神をあるべき方向に修正するための知識であり学問だと感じました。

つまり、後付けだと思っていた哲学が実は時代に先立つ学問なんじゃないか。と思えただけでかなりの収穫です。

今後、今まで敬遠していた哲学関連の書籍も積極的に読もうと思える素晴らしい1冊でした。

以上、ご精読ありがとうございました。

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